Shingetsu-Kagura Project vol.06 2024.03.10.
6回目となる今回は、Project半分の節目となることもあり、自分に大きな影 響を与えてくれた、バリ島での音楽との出逢いとそこでの奇跡のセッション の音源を紹介したいと思います。 日本は、素晴らしい文化や音楽を培ってきた国だと思います。しかし、今生 きる僕たちに、その真髄が受け継がれているのか!?と言うと、如何ともし 難い状況の様にも思えます。
自分の場合は、音楽の道を暗中模索していた二十歳そこそこの頃、地元の神 楽と出逢うことができ、そこの神楽師となったことで、伝統芸能の中に脈々 と流れ続ける「芸能の源流」というものを肌で感じることができているの も、かなりラッキーなことだと思えます。しかし、そんな神楽の師匠連中で さえも、芸能や音の真髄や奥義という事は理解していない状況でもありまし た。 実際、自分に大きな氣付きや、根源的な音の在り方や打法を教えてくれたの は、韓国の武術と音楽の達人の金在徹先生だったりします。この先生は、表 舞台に出てこない達人中の達人でもあります。 日本にも唯一尊敬できる存在であり、師匠でもある土取利行という類い稀な る達人が居てくれたのも、本当にラッキーなことでした。実は現在、土取さ んが音楽監督を務める、故・磯崎新さんの「間」展というプロジェクトでイ ランツアーに行っていまして、今回の新月は日本不在でもあります。
バリ島という場所は、以前テレビの番組で特集が組まれていて、いつか行っ てみたい場所でしたが、そんな想いが叶ったのが2014年でした。青銅打楽器 の狂乱の地!?と言っても過言ではないほどに、バリには金属楽器の音が鳴 り響いていました。 一般的には、ガムランという青銅打楽器のオーケストラ編成が知られていま すが、この音源の中にポイントで出てくる鐘の音があります。それは、グン タという僧侶が鳴らす鐘の音なのです。
バリでは、バリヒンドゥーというバリ島独特な宗教観に発達した、日本の古 神道にも通ずる感覚の宗教があり、様々な儀式やお祭禮がそれに従って行わ れています。 シワ派とブッダ派という宗派があり、今は亡きブッダ派の高僧さまから聞い た話では、その二つの宗派が一緒に儀式をするのが大切とおっしゃっていました。
そして、その儀式に欠かすことできない「グンタ」のことも話してく れました。少しだけその話を紹介しておきたいと思います。
グンタを鳴らすことの意味は、自然のエネルギーは、形にできないが、それ を感じやすくしている。どこの宗教でも、だいたい鐘を使う。この世にある 自然のエネルギーは、現しにくいので、鐘を通して現している。自然の中の 柔らかく繊細な核のようなものを表現している。 グンタを鳴らしてつつ、自分の中のグンタも鳴らし、自分の中のグンタ (核・心)と実際のグンタを繋ぐ作業であるのだ。グンタを鳴らしている時 は、自然の象徴の音、倍音を継続して鳴らすのが大切とのことで、これは、 神楽太鼓と重なる感覚でもあったのを強く覚えています。 そして、グンタは、7つの音色があり、繋がりたい高次のエネルギーを呼び、 バジェロヤクサッ(バジェロ)は、「悪いエネルギーからプロテクトする!」と のこと。
バリ島の祭禮では、そんなグンタを使った儀式と、芸能部分であるガムラン の演奏が同時進行していきます。このガムランの演奏は、単体でも奉納され ますが、その演奏によって、バリスという武者姿の舞手が大人数で踊ること もあり、バロンと言う獅子(そのものが御神体)が登場する事もあります。
錯綜するガムランの道
01 Gon gu de Special 2015Bali
02 トランスの儀式 2015Bali
03 錯綜するガムランの道 2015Bali
04 奇跡のGon gu de×神楽太鼓奉納 2015Bali
05 バロン満月の儀式×神楽太鼓奉納 2017Bali
1曲目は、ガムランの古いスタイル(Gon gu de )の奉納演奏です。幽玄の世 界観がゆったりと20分ほど入っています。僕は、現在の日本での音楽の在 り方が、短時間過ぎると思っています。勿論、凝縮された楽曲にも素晴らし いものもあるのも事実ですが、音楽は常にゆったりと存在し続けるものであ って欲しいという想いもあり、そんな感覚を味わっていただけたら嬉しい限 りです。ラスト部分では演奏が終わりますが、儀式は続いていて、グンタの 音は継続して聴こえてきます。様々な要素の音が同時に存在し、そして、お互 いの信頼感と共に祭禮の場のエネルギーが満ちていく!!! この感覚がなんとも言えず、大好きな世界なのです。
2曲目のトランスの儀式は、友人がバリの芸能に精通していて、まず観光で は行けないその村の人しか居ないというトランスの祭禮での一コマです。ト ランスに入っていく様子から、トランスが解除される様子まで収録されてい ます。バロンが現れ祭りは最高潮へと向かう時、沢山のヤシの実の殻に火が 付けられました。大きな火が上がり、そして、その火が着いている炭を蹴散 らしたりしていたかと思いきや、それを口に入れて吐き出すと言うあり得な い行為が始まり、会場は常軌を逸した状態へ突入していきました。あの空間 と雰囲氣に、あのガムランの音があるからこそトランスへと入っていくんだ ろうなあ、と興味深くかなりの近距離だったので、「息を呑む!」とはこの 事か!!!と言う体験となりました。 そして、本当にトランスに入っている方をこちら側へ戻してくる時に、高僧 さまが聖水をその人の頭や額や身体にかけると、夢から覚めた様な感じで我 に返る様子には圧倒されました。 日本にも、いわゆるトランスに入る神様付きというものが、島根県の
大元神楽に残っていますが、最後に神様付きになった方は、昭和だったそう です。現在の日本では、ほぼお目にかかれないと言うのが現実の様です。 スイッチが入って、オフにするまでが一連の流れであり、重要なのはおそら くいかにオフにできるか!?と言うことだと思います。バリには、まだまだ そのオフにできる仕組みが普通に存在していて、文化の奥深さを感じずには いられません。
3曲目の「錯綜するガムランの道」は、バロンの魂入れの儀式に集まって来 る、各村々のガムラン隊を、寺院の入口付近で待ち構えて、その音を録音し たものです。それぞれが違うスタイルなので、かなり興味深くて、この音風 景がとにかく大好きで自分だけで楽しんでいました。いつか何かの形で紹介 したかったのが、今回実現しました。かなりの混沌具合もさる事ながら、そ れぞれのガムラン隊の音像が錯綜しながらも、お互いが意識しつつお互いに ブレずに進んで行く根源的な芸能のエネルギッシュな世界観でした!!! 即興セッションにも通ずる感覚でもあって、ニヤニヤしながら聴き入ってい ました。 何も考えずに音に身を任せてみると、音像が何層にも重なり合って多次元的 で、自分がフィールドレコーディングした中でも、ベスト3には入る貴重な 音源です!!!
4曲目の「奇跡のGon gu de×神楽太鼓奉納」は、3曲目の時のバロンの魂 入れの儀式での奉納演奏です。何体も並んだバロンの前で奉納させてもらえ た奇跡の音源です。 責任者の村長さんが、「何分位やりますか!?」と言うので、「15分位時間 をいただければありがたいです!」と答えると、「全然問題ないので、自由 にやってください!!!」と言うことで始まった奉納演奏でした。 が、神迎え的な導入部分が終わって、いよいよこれから本格的に加速し行こ うとしたタイミングで、ガムランの音が聴こえてきたのです!!! そして、なんとガムランとの共演が始まってしまったと言う・・・ 後から聞けば、この時はかなり凄いことになっていたそうで、とても大切な 儀式が今始まるから、すぐに演奏をやめてくれ!と村長さんが友人に伝えて いたらしく、それでも始まってしまったので、友人がなんとか誤魔化しつ つ、僕の奉納演奏を最後までやり切らせてくれました。 神楽太鼓の奉納演奏している背後の割門からは、バリスと言う舞手が入場し て来て、バリの芸能がガムランと日本の神楽太鼓の奉納演奏の中で行われる と言うあり得ない良い意味での混沌具合の、奇跡の状況だったのでし た!!! 神楽太鼓の奉納が終わり、ガムランの響きとグンタの音が継続して流れてい く感じも最高です! そこで聴こえるグンタの音が、村長さんの言っていた重要な儀式だった様で す。
5曲目は、翌々年に別の村のバロンの満月の儀式での奉納演奏です。この時 は2度目ということもあり、かなり自由にやれました。 4曲目と5曲目の様子は、僕のホームページのMovieにありますので、見て いただけるとその時の臨場感が伝わるかと思います。 https://dragontone.wixsite.com/gaishi-ishizaka/movie
今回は、何かに突き動かされる様に、こんな長文になってしまいましたが、 Shingetsu-Kagura Project に参加していただいている皆さんには、伝えて みたくなってしまいました。 こういったバリでの貴重な体験が、今の自分の音の中に脈々と流れ続けてい ます。自分自身でもグンタを手に入れて、グンタと自分のグンタを繋ぐべ く、大切な場面では鳴らす様にもしています。 日本では習得できなかった、目に見えない大切な世界観をバリの文化や人か ら教えてもらえたのだと思うのです。