Dragontone /石坂亥士

神楽太鼓奏者・石坂亥士のブログ

「浜辺のサヌカイト」スタッフ目線の記録 〜その弍〜

この有明浜は、休日になるとマテ貝を採る人たちが沢山訪れる。

櫓台を設置するのが、ちょうど日曜になってしまったので、マテ貝採りの人たちが貝を掘るのに夢中になる中その設置作業が行われたのだった。

砂の状況や櫓の形状などから、最初に杭を打ち込んで、柱を固定していくことになった。何度か下見で訪れていたので、群馬から掛矢[大きな木槌]を持ってきたのだ。持っているのは、大工か鳶職かというくらいだが、たまたま実家にあったので、持って来たこの掛矢が大活躍してくれたのだ!!!

後から聞けば、父が友人の刃物屋さんが「掛矢いるかい!?いらなければ廃棄しちゃうけど。。。」ということで、もらったものらしい。

回り巡って、群馬の桐生で廃棄されていたかもしれない掛矢が、香川の観音寺の浜で、それも現代の最重要神事とも言える、サヌカイトの櫓の基礎となる杭を打つのに使われるというのも面白いもんだなあと思える。

適材適所という具合に、誰言うともなく、黙々と作業が進んで行く様子は、とても氣持ち良い。そんな設営作業からして、今回のプロジェクトの流れが良いことが感じ取れる。

掛矢を振るっているのは、高知のボランティアスタッフさんで、日頃からこういった作業に慣れていると言うことで力技をかって出てくれた。しかし、翌日はかなり効いてしまって筋肉痛だったとか・・・。

角材を当てて、杭のダメージを最小限に抑えているのは、瀬戸内サーカスにも所属している大旗使いの麻風くん。この角材は、彼の車に積んであったものとのことで、彼の車には、大旗に使う竿から始まりいろんなモノが積んであり、かなりの場面に対応できそうで素敵だったなあ。

最終的には、ボロボロになって、カメラマンの小笹くんのテントでの焚き火用になるというのも、ある意味循環で良い感じだった。

麻風くんのサイト

飾りとして使われる予定だった細竹だったが、休憩の時に土取さんと麻風くんの遊び道具となっていた。

土取さんは、身体的にもかなりのマスターなので、こういったモノの扱いもお手の物という感じに、麻風くんにプチレクチャーしていた様にも見受けられ面白い光景だった。

そして、日が暮れていく。

浜辺に建ったサヌカイトの櫓が、神の依代に見え始めていく・・・。

この櫓を組んでいく時感じたのは、20代の頃行った銀鏡神楽の準備風景だった。

どうしても準備を観たかったので前日に現地へ行くと、祭りの準備真っ最中で神楽師たちが外神屋(そとこうや)という神楽の舞われる場所を作っていた。ちょうど「ヤマ」と呼ばれる3メートルから4メートルほどの高さで、葉の付いた樫の枝を上手いこと差し込んである生垣の様なもので、、外神屋の正面に立てるものを立てている所も見ることができ、そのヤマの中央に神の依代となる6メートルほどの柱「シメ」を立てる場面が、特に強く記憶に刻まれていたのだ。

今回、そんなシーンが自分の中に蘇ってくる感覚があり、何かを立てる行為というものが、かなり重要なんだということを体験する形になったのは、本当にありがたいことだと思えた。

誰でもいいわけではなく、志ある仲間と共に、サヌカイトの櫓を無心に立てて組んでいく行為自体が、まさに神楽の根底にある様にも思える。

撮影の照明チェックとなった、その日、赤い目の様な夕陽が夕闇の直前に煌めいていた。

この日に初めて、サヌカイトを櫓に設置していった。サヌカイトというと聞こえはいいが、石であり、かなりの重量となる。砂浜という不安定な場所に運ぶだけでもかなりの労力が使われるのだ。

そんな中でも一番苦労したのは、暗闇でテグスを巻きつける作業だった。

釣具屋で買った最強の30号のテグスは、やはりかなりの強度があり、20号と迷ったが、こちらにして正解だったと言える。

釣具屋さんでのやり取りが、なかなか面白かった。

俺 「石を吊りたいんですけど、太いテグスありますか!?」

店員さん「石ですか??? 釣れますかねぇ・・・・」

俺 「じゃあ、一番太いのはどれですか?」

店員さん「これですかねえ、30号の・・・」

吊りと釣りの違いが、俺と店員さんの間の微妙な空氣感を作り出していたことは、後になって納得だったが。。。。

この30号、なんと700メートル分あるので、今後、土取さんがサヌカイトのコンサートを何度をしても対応できるという素晴らしさ!!!

雰囲氣ある月が雲間から見え隠れする中、吊られたサヌカイトは、ある意味自由に揺れ動いて嬉しそうにも見えた。

翌日の本番を想定して、関係者で月を見上げる。

静寂の中でも、波の音が引いては寄せる、まさに「浜辺のサヌカイト」。

その夜、サヌカイトが設置されたことで、櫓台は、かなりの神々しい雰囲氣を放ち始めていた。