Dragontone /石坂亥士

神楽太鼓奏者・石坂亥士のブログ

「浜辺のサヌイカイト」スタッフ目線の記録 〜その四〜

夕陽のサヌカイトの撮影が終わり、そこからは一旦関係者が現場を離れるので、小林さん、すぎさん、俺の関東からやって来た3人組でサヌカイトの櫓の見張りをする事にした。

40代、50代、60代の男が、海を見ながら弁当を食べるという、今後あり得ないであろう、不思議に面白くて豊かなひと時が流れていく夜の砂浜。

この時すでに、潮は満ち始めており、満月だからなのか、満ちる勢いに乗じてなのか、風もかなり出てきていた。

ちょうど、時間が空いたのと閃きで、まさにリアル感120パーセントの状態となる、サヌカイトの櫓の前で、Spiral Groove[FM桐生]の収録をすることにしたのだ。

それも、その場に居る小林さんとすぎさんと俺の三人の雑談を、とりあえず録ってディレクターの小保方くんに送って、なんとかしてもらおうという。

実は、Spiral Grooveでもクラウドファンディングに参加しており、映像作品のラストのクレジットに載せてもらえる予定なのだ!!!

人知れず応援するのも勿論素晴らしが、番組としては、この奇跡の映像作品に、少しでも協力したという形が残せるのはとても意味のあることなのだ。

この後、各地で上映など始まるかもしれないわけだし、うまく行けば世界中で上映される可能性もあるわけだ!!!

今のところ放送関係は、俺たちの番組だけのはずなので、このまま行けばセンスのある放送関係は俺たちのみとなるのでは!?という予感である。

そんなこんなで、収録を終えて、氣がつけばかなりの風が吹いて来ている。そして、雲もかかりかなりの湿度だ。

吊り下げられrたサヌカイトが揺れ動く姿は、生き物の様にも見え、一つのサヌカイトは、物凄い高速で回転を続けていた。

あまりにも凄かったことと、臨場感を共有しておきたいので、俺の撮った映像で恐縮だが紹介しておきたい。

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しばらくすると風は止み、波の音以外は静寂の砂浜が戻ってきた。手前にある壺は、「ウドゥ」という西アフリカの粘土でできた壺太鼓だ。現地では儀式の時に演奏されるもので、現地の言葉で「血管」を意味する。

今回、この楽器をなんで持って来たのかなぁ!?と思っていたが、後述の土取さんの文章を読んで妙に納得してしまった。

夜空が、刻々と変化していく中、少し動きがあった。

急遽、土取さんが、波の音の中でウドゥの演奏をするという事で、撮影クルーと音響さんが、そのセッテイングに走り回ることに。

雲間という言葉がある様に、その隙間から見え隠れする満月がやけに魅力的に映る。

随分と明るく撮れていてびっくりしたが、この時22時40分を回っている。

土取さんの文章によると、演奏は、木(桴)火(夕陽)土(土器鼓)金(石)水(海)のエレメントで成り立っている。

ウドゥの演奏が終わって、再度待機となったが、この時、エレメントの一つの水(海)が、かなり迫って来ていた。

満潮の勢いと雰囲氣は、ゾワっとするほどに物凄いエネルギーと共にやって来る感覚だった。

youtu.be

もう波は、櫓のすぐそこまで迫っている。

少し余裕をもって、波が来ない所に建てたはずだったのだが、あれよという間に柱に近付いてくるではないか・・・。

とにかく音響さんたちが大変だった。迷っていたが、海側と左右の側面の地中にマイクが埋めてあったのを避難させてから、その少し後には、波がやって来るという。。。

やって来る、やって来る。

淡々としているが、その勢いは止まらず、進んで来る波。

結局、櫓の中で土取さんが演奏するゾーンを全てクリアにしてから、波は引いて行った。

結果的には、サヌカイトの櫓を海がクリーニングして戻って行った感じだ。

一回一回の神事や儀式において、やはりその都度クリーニングするという行為が必要だと教えてくれた様に感じた出来事だった。このことは、肝に銘じておこうと思う。

その後、土取さんが浜辺に現れたと同じくして、月も顔を出した。

撮影前の少しの時間に、記録用に写したものだが、撮影本番では、この感じの月ではなかったので、これはこれで貴重なショットとなったとも言える。

こんな感じに、空間が歪んでいる様な錯覚さえも覚えるほどの秘儀的御神事となった「浜辺のサヌカイト」。

太古から流れ続ける、いのちの源流の記憶が蘇った瞬間でもあった。

月と交信している様にも見える土取さんの後ろ姿。

この感じ、月のゲートが開いた瞬間だったかもしれない。

撮影クルーのセッティング待ちの短い時間だったが、このなんとも言えない間の瞬間が、とても印象的だった。

このショットは、本当に撮影が始まるギリギリの瞬間の一枚だ。

同じ演奏家として、そして、設営のスタッフとして何故か撮っておきたかった。

今、この写真を見て思うのは、自分たちで創った櫓にサヌカイトが設置されて、そして、最後の仕上げとして演奏者の土取さんがその場に立ち、満月が迎えてくれているという奇跡の瞬間の一枚だということだ。

サヌカイトの音は、石が湿ったことで響きが鈍くなったものの、その音の密度感は凄まじかった。夕陽の演奏が、表向きの美しい音だとしたら、この月夜の演奏は、秘儀的な音と言えるかもしれないと勝手に思っている。

映像の長岡さんが最後にサヌカイトの櫓を撮っている姿が、祈りを捧げている様にも見えた。

撤収が始まる頃、月がまた現れ、最大限の演出効果を発動していた。

雲間の月。

満月のサヌカイトが始まる前、この場も波が完全にクリーニングしてくれたので、まっさらの状態になってしまった。

その事を伝えると、土取さんがこのサヌカイトを持って、軽やかに中心から螺旋を描いていき、最後に迷う事なく、その真ん中に「ズンッ」と突き立てて、新たな依代が完成したのだ。

おそらく、その行為を目撃していたのは、俺だけだったかもしれないので、ここに記しておきたい。

依代になりし螺旋のサヌカイトが、満月の祝福を受けている様にも見えた。

深夜2時を過ぎての関係者一同で記念写真。その後、充実感と心地良い疲れの中、宿で撃沈となったのでありました。